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大阪地方裁判所 昭和35年(ワ)4635号 判決 1962年5月23日

原告 安井外二

右訴訟代理人弁護士 荻矢頼雄

被告 株式会社 正宗屋商店

右代表者代表取締役 安井外次郎

右訴訟代理人弁護士 長岡徳蔵

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、昭和三五年八月一三日に開催された被告会社の定時株主総会における、取締役安井外二を解任する旨の決議を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求めその請求原因として、被告会社は昭和三五年八月一三日に定時株主総会(以下本件総会という。)を開催し、取締役である原告を解任する旨の決議をなした。しかしながら、右総会の決議は次の理由によつて取消さるべきである。

すなわち、(イ)本件総会を招集するについては、被告会社は原告を除く各株主に対し昭和三五年八月七日または同月八日に、また原告に対しては同月九日にその招集通知を発したのであり、仮りに被告の主張するように、右通知を同年七月二九日および三〇日に各株主に手交したものであるとしても、同月三〇日の分については同年八月一三日の本件総会の二週間前に発したことにはならず、従がつて本件総会の招集は商法二三二条一項に違反している。(ロ)そのうえ右招集通知には単に「役員解任の件」とのみ記載せられ、具体的に解任さるべき役員の氏名等を明かにしていないので、右通知は同法二三二条二項所定の要件を具備していない。(ハ)さらに被告会社は、本件総会の招集通知を各株主に対して直接に発送したのではなく、株主安井外次郎、同安井フミヱ、同安井外二、同阪田正雄、同遠藤辰夫を除く他の株主を六つのグループに分け、そのグループのうちの一名にそこに属する各株主宛の招集通知を一括して手交したのであるが、右のような方法では各株主本人に対する本件総会の招集がなされたものということはできない。

以上のとおり本件総会はその招集手続が法令に違反しているので、被告会社の株主である原告は、右総会においてなされた取締役である原告を解任するとの決議の取消を求めるため本訴に及んだと述べ、立証として≪省略≫

被告訴訟代理人は、主文どおりの判決を求め本案前の答弁として、原告は、当初被告を株式会社正宗尾商店と表示して本件訴を提起し、後日株式会社正宗屋商店と被告名を変更するに至つたが、右のような訴提起後における被告の変更は許されず、仮りに許されとしても右の変更は本件総会の決議後三ヶ月を経過した後になされたものであるから、商法二四八条一項に規定する要件を充たしていないと述べ、本案の答弁として原告が被告会社の株主であること、被告会社が原告主張の日時に本件総会を招集し、右総会でその主張のような決議をしたことはこれを認める。被告会社は本件総会の招集をなすについては、右招集通知を被告会社代表者において、昭和三五年七月二九日と三〇日の二日間にわたり、原告を含む全株主に手交するという方法を採つたものである。しかして右三〇日に手交した株主阪田正雄同遠藤辰夫の分は法定の期間に不足するところがあつたが、本件総会には全株主が出席ししかもその点については何等の異議もなかつたのであるから、それを理由にしてはすでに右決議の取消を求めることはできない。なお原告が主張する(ロ)、(ハ)の事実については、右各事実が本件総会の取消原因を構成するものではないと考えると述べ、立証として≪省略≫

理由

先ず被告の本案前の抗弁について判断する。たしかに訂正前の原告提出にかかる訴状には、被告の表示として株式会社正宗屋商店との記載がなされていたことが認められるが、訴状添付の付属書類等からすれば、右が正宗屋商店の誤記にもとずくものであることは明らかで右訂正によつて補い得るものであるから、これを指して当事者の変更があつたということはできない。そこで原告が、本件総会の決議取消の事由として主張する(イ)の事実について考える。原告が被告会社の株主であること、本件総会において、取締役である原告を解任する旨の決議がなされたことは当事者間に争いがない。

しかして成立に争いのない甲第一号証に証人安井貞子同阪田正雄の各証言、原告本人および被告会社代表者本人の各尋問の結果を考えあわせると、被告会社がなした本件総会の招集通知は、少くとも原告ならびに株主阪田正雄同遠藤辰夫に対しては会日の二週間前に発せられていない事実が認められるところであり、右認定を左右するに足る証拠もない。

しかし成立に争のない乙第二号証に、原告本人および被告会社代表者本人尋問の各結果によれば、本件総会には委任状提出者も含めて全株主が出席し、しかも右の通知期間の不足していることについては、席上何人からも異議の唱えられなかつたことが明らかである。このような場合、なお右の瑕疵を理由として、あえてその総会でなされた決議を取消すべきものであるとすることには問題があろう。少くとも本件におけるように、招集通知の期間が不足している場合に右通知にもとずいて全株主の出席をみ、そうしてとくにその点について異議なく決議がなされた以上は、右の瑕疵に対する承認があつたものとして後日そのことを原因としては、もはや右決議の取消を訴求することを得なくなつたものと解するを相当とする。したがつて、この点に関する被告の抗弁はその理由のあるものといわなければならない。

原告は右の二、三の株主のみならず、原告以外の全株主に対する招集通知が昭和三五年八月七日または同月八日に発せられたと主張するが、右事実を認めるに足る確たる証拠もなく、仮りに原告の主張するとおりであつたとしても、前述の結論を異にする必要もないと考える次第である。

次に原告の主張する(ロ)、(ハ)の各事実は、昭和三七年三月八日および同年五月九日の本件口頭弁論期日においてそれぞれ追加主張されたものであり、本件総会の決議後三ヶ月以上を経過しているので、右各主張は商法二四八条一項により許されないところである。

以上の理由により、原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田鷹夫 裁判官 天野弘 三宅純一)

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